地方の事業者による海外販売の“0.5歩目”を支援する「47storey」、越境ECが特別なものではなく「当たり前の選択肢」となる未来の地方創生を目指す

株式会社JTB
私たちはもともとインバウンド向けのプロモーション事業を行っていましたが、2020年に発生した新型コロナの感染拡大による渡航制限により海外からの旅行者が激減しビジネスが消失しました。多くの方にとってJTBは「旅行会社」の印象が強いのではないかと思いますが、実はグループの事業ドメインは「交流創造事業※」です。つながりを生み出すことで企業としての価値創造を行いたいと考えており、新しいことに取り組む社風があります。そこで始めたのが旅行会社の強みを発揮できる越境ECへの参入です。Buyee Partnersの仕組みを利用して「47storey」を開設、言語や決済、配送をサポートいただきながら、私たちが全国47都道府県の逸品を掲載していきます。サービスを利用される事業者様は費用負担なく出品が可能で、当社は伴走サポートプランのご利用や海外向けプロモーションから収入を得るというビジネスモデルです。
BeeCruiseさんとはもともとお取引があり、「47storey」を立ち上げる以前から越境EC支援サービスBuyeeは素晴らしい仕組みのサービスだと感じていました。私たちは旅行事業を通じて全国各地の自治体などとネットワークを築いており、プロモーション事業を通じて海外のお客様の窓口である空港や観光案内所、宿泊されるホテル、飲食店、観光施設など無数のタッチポイントを保有しています。こうしたリアルな接点で商品をPRし、越境ECサイトへ誘導するという私たちならではの流れをつくれると考えて「47storey」立ち上げに踏み切りました。
「47storey」の運用を開始したところ、自治体や中央省庁の越境ECに対する興味関心が予想以上に高いと感じました。また、利用者は大都市圏内の事業者様が中心になるのではないかと考えていましたが、地方の事業者様によるお申し込みが想像以上に多く驚いています。例えば自治体主催のセミナーに登壇させていただく機会があるのですが、地方からの参加者が非常に多い状況です。皆様の反応から、特に越境ECに取り組む初期段階の事業者様にとって非常に親和性の高いサービスだと感じています。
一方で多くの事業者様と対話する中で感じる課題もあります。家族経営や個人事業などでコストやマンパワーがかけられないというケースもありますが、「出店・出品後にどう事業を進めていけばいいかわからない」というマーケティングに関する根本的な問題が多い印象です。例えば海外のニーズやトレンドについて理解のないまま新興国だからといって特定の国やエリア向けの販売を希望されたり、サイトアクセスを集めるためのプロモーション手法をご存じなかったり、優れた無料のAIツールを使うことで作業効率が改善できるのにご認識されていなかったりします。知識やノウハウがあれば地方の事業者様はさらに飛躍できるのではないかと感じる場面は多いです。そこで私たちは初歩的な「知っておくべきこと」や「無料でできること」からメルマガやセミナーを通してお伝えしています。そのうえで、事業者様のフェーズにあわせた具体的なプロモーション手法をご提案し、実行までサポートさせていただています。単なるツール提供ではなく現場のご担当者様の0.5歩目から支援を心がけています。サービスの提供開始から2年ほど経ちましたが、事業者様のフェーズは初心者の方から売上を積極的に伸ばしたい方まで想定より多様であると感じており、今後は支援メニューを増やしていきたいと考えています。
過去の取り組みから兵庫県の豊岡鞄工業組合さんの成功事例をご紹介します。全国の自治体様や組合様にとって参考になる「王道」のモデルケースだと思います。豊岡は日本最大級の鞄の産地として知られ腕利きの職人を多数抱えています。もともと海外の展示会に出展するなど欧米での販売意欲をお持ちでしたが、私たちはまず「本当にそのターゲットで良いのか」という原点に立ち返り、複数年計画での伴走をご提案しました。
✅ ステップ1:ニーズ調査とターゲットの再定義
まず、日常的に日本から商品を購入している世界各国のBuyeeユーザーに対して大規模なアンケート調査を実施しました。その結果、「台湾の30〜40代男性と40~50代の女性」が豊岡鞄工業組合にとって最も有力なターゲットになり得ることが判明しました。
✅ ステップ2:ターゲットへのPRと体験創出
次に、ターゲット国である台湾からインフルエンサーを豊岡市に招聘しました。鞄づくりの現場や職人の想いを取材してもらい、現地の熱量を伝えてもらいました。
✅ ステップ3:現地での販売とBtoB展開
最終段階として、台湾の百貨店で14日間のポップアップストアを開催しました。これが非常に好評で、約550万円を売り上げました。さらに、その場に現地のバイヤーも招待し、BtoBの卸売契約にも繋がっています。
このように、仮説だけで進めるのではなく、データに基づいてターゲットを定め、段階的に施策を実行していく。この一連のプロセスがお手本のような事例になったと考えています。
今後、このような地方創生を進めていくためには「地域をトータルプロデュースするプレイヤー」が必要だと感じています。現状では、惜しいことに地方創生の各施策が分断されてしまっているケースが少なくありません。越境ECは本来、数あるマーケティングツールのひとつです。例えば地域を訪れたインバウンド観光客が現地で商品を体験し、帰国後に越境ECで商品を購入する。こうしたリアルとデジタルの連携が当たり前のように設計されるべきです。そのためには地域全体を俯瞰して様々な施策を統合してディレクションできる存在が求められていると思います。そして地方の事業者様にとって越境ECが特別なものではなく「当たり前の選択肢」となっている未来になってほしいと考えています。販路が目の前のお客様だけではなく、世界中に広がれば、ビジネスの刺激となり新しい視点が生まれてくるのではないでしょうか。「47storey」がそのきっかけとなることで日本の地方創生に貢献していきたいと考えています。
※「交流創造事業」は、JTBの登録商標です。
大阪第三事業部事業創造室 47storey事業部チーフプランナー
末永 努様